小論文試験では、現代の未解決な課題について意見を書くよう要求されることがほとんどです。そして、私の指導経験上、小論文受験における悩みの大半は、どのような意見を書こうかというものです。
出題された課題について、何らかの取り組まれている話題を知っているなら書きやすいでしょう。だから、出題されそうなテーマを事前に調べておくことは小論文受験学習上大切なことです。
ただ、あまり知らない課題内容についてでることもあります。このとき、その課題への対策を提言することは難しいです。そして、そうなると起こしがちなミスというものがあります。今回は、たとえ、自分があまり得意ではない課題について問われたとしても、書く意見内容として採用しない方がいいパターンを紹介します。
ちなみに、以下は拙著『対策法伝授! 大学受験小論文への向き合い方が身につく本』から抜粋しました。そのため、常体で書いてあります。お含みおきください。
書かない方が良い意見内容について
「女性の社会進出をどのように進めていけば良いか」という課題が出たとしよう。
皆さんの中でには、「女性は男性のようには働けないとか、結婚や出産で辞めてしまうだろうから人材育成するのは非効率であるとかの偏見が未だ根強いと考える」というのを根拠に、「このような偏見を持たないよう、一人ひとりが気をつけて接すれば女性もやりがいをもって働ける。女性への偏見を捨てる心掛けをすべきだと考える」といった趣旨の意見を書こうかなと思う人がいるのではなかろうか。
確かに、女性への偏見がこの日本にはあるかもしれない。そして、偏見を持たずに接することは素晴らしい態度だ。ただ、小論文の意見としては不十分である。何故か。それは、「心がけ」や「気をつける」といった一人ひとりの言動を用いて、社会問題を対策しようとしているからだ。
個々人の外在したところにある問題を、個人対応で済ますのは、あまり解決にならない対処法である。だから、その内容を書くのは止めようということになる。
例えば、SNS界隈では誹謗中傷問題が深刻だ。これを、書き込む個々人のリテラシーに期待する呼びかけだけで改善するか。しないだろう。気をつけて言葉を選んで書く人は、言われる前からそうしており、できない人は呼びかけていても好き勝手に書き込んでいるのではないだろうか。だから、システム――被害者が容易に訴えることのできる構造をつくったり、不適切な書き込みをできなくするといった技術を取り入れたり――で対処しようとしているはずだ。
上述した女性の社会進出も、女性の働く際の気持ちを代弁できるように女性管理職を登用する割合を高めたり、キャリア像が抱けるロールモデルの構築をするためにも、子育てしながら働く従業員への手厚い福利厚生を開発して離職を防いだりというシステム的な提案をしなくてはならない。
個々人が気をつける態度は大切だ。しかし、小論文試験で取り扱われる問題はそれでは解決しないものばかりだ(そもそも、個人の言動だけで何とかなっているなら社会の問題になっていない)。 したがって、一人ひとりの良心に働きかける掛け声のみを意見として書くことは避けていただくようお願い申し上げる(ただ、どうしてもこれしか思いつかない場合の対処法は、本書第3章第3節にある)。
一人ひとりが言動変える系を書かないためには
ついつい、課題解決に必要な態度で一人ひとり生活を送ろうという意見は書いてしまいがちです。
著作抜粋以外にも、例えば、地球温暖化にならないよう脱炭素社会にするにはどうしたら良いか、食品ロス問題の解消にはどうしたら良いかなど環境問題系でも、「一人ひとりが〇〇に配慮した生活を送ろう」と書く同様のパターンはみかけます。
これらは、上記に述べましたとおり、「社会」の問題になったときには、それだけでは上手くいっていない現状、そして個々人の思いや行動は、スローガンを提唱するだけではなかなか厳しいという実態を考えますと、あまり現実的な意見にならないわけです。
ということで、なるべく受験前までの対策としては、どのような課題に、社会はどのように向き合っているかを調べておき、良いアイデアなどをストックしておきましょう。試験当日には、そのストックが多ければ多いほど、しっかりした意見内容が書けますよ(下記、補足欄参照)。
また、どうしても当日準備不足の課題が出たときは、その対策法があります。この点は、著書に盛り込みましたので、確認されたい方は、是非手に取ってみてください。
補足~まとめに代えて~
ちなみに、私の指導経験上、小論文試験を直前の1か月ほどの学習で乗りきれた(=合格できた)人というのは、なんだかんだストックが多い(色々な本を読んでいり、ニュース番組などを見ていたりするということ)方がほとんどでした。
そういうストックが乏しい人は、他科目受験同様、事前学習をある程度しないと、難関大といわれる大学の受験結果になるほど厳しくなります。世の中に、書き方などを教えてくれる対策本は数多くありますが、書く内容がしっかり自分の中にないと、せっかくの参考書直伝が使えなかったりします。
小論文を受験で使うとなったら(欲を言えば、教養的な意味で普段から)、ストックを得るように心がけましょう。